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2017年10月18日
■第一回代議員会
2017年7月22日(土)午後1時より、東京支部2017年度第一回代議員会が工学院大学新宿キャンパス5階0563教室で開催されました。
役員を含め56名の代議員の方の出席があり、津田副支部長、中村副支部長の司会により下記のとおり議事進行が行われ、議案内容が承認されました。
1、役員紹介
2、五十嵐支部長挨拶
3、代議員の役割、任務、本部代議員について
4、2017年度支部活動計画について
■第一回講演会
代議員会の後、工学院大学 工学部電気電子工学科 教授、福岡 豊先生に「生体医工学ー高度先進医療への工学の貢献」と題して講演していただきました。
この講演では、工学技術が医療の進歩にどのように貢献してきたか、さらに工学院大学(主に生体生命 情報研究室)での研究教育を例に、これからどのように関わっていくかをお話しして下さいました。
❖工学技術なしでは成り立たない現代の医療
現在、医療の分野で使われている工学技術は、例えばCT、MRI、エコー、内視鏡、腹腔鏡、カテーテル、ペースメーカーなど、よく耳にするものばかりです。講演会に参加されたご父兄の中にもこれらの医療機器にお世話になった方が何人かいらっしゃいました。
医療機器で最近話題なのが、手術ロボットのダビンチです。ダビンチによる手術は胸部や腹部に数カ所穴を開けて行う胸腔鏡下手術、腹腔鏡下手術を発展させたもので、従来では不可能だった角度からの視野の確保と、鉗子の細密な動きを実現しています。医師は患者の胸や腹に開けた複数の穴からカメラと鉗子を入れて、画像を見ながらアームを遠隔操作します。出血量も少なく、患者にとって非常に負担の少ない手術方法です。ダビンチを操作する医師たちは、実際にダビンチのアームで5センチ角の折り紙を使って折り鶴を折り、操作技術のトレーニングをしているそうです。ダビンチを使えば、北海道の患者を東京の医師が手術したり、外国の患者の手術を行うこともできます。実際に、米軍では、戦地でけがをした兵士を、遠く離れた本国の医師が手術することもあるそうです。ダビンチをはじめ、工学技術なしでは、現代の医療は成り立たなくなってきています。ダビンチは米国製で、日本では他の医療機器も輸入に頼らなければ成り立たないのが現状ですが、ぜひ国産を作りたいというのが工学技術者たちの思いだそうです。
❖工学技術の医療への貢献の歴史
今は使い捨ての電極を使って心電図をとりますが、1900年ごろは、バケツに電気を通す液体を入れて、その中に足を入れて心電図をとっていたそうです。血圧を測る装置も同様に大きなものだったそうです。それが徐々に進歩して、1959年ごろまでには心電計、血圧計、保育器なども作られるようになり、60年代には小型化され、ポータブルの心電計が作られて24時間心臓をモニターできるようになりました。病気の治療以外にも、ポータブルの心電計をつければ、スポーツ選手がどのような筋肉の使い方をしているか、筋肉が収縮するときに起きる電気を測って、スポーツの記録を更新させる研究も行われているようです。
70∼80年代はペースメーカーや熱によって切る電気メス、内視鏡に装着してお腹の中で使えるレーザーメスも開発されました。
90年代にはお腹を切らずに複数の穴を開ける腹腔鏡手術ができるようになりました。
そして、2000年代は、iPS細胞に代表される再生医療、ロボット手術、遺伝子診断、遺伝子治療などの研究が活発に行われています。
このように、工学技術は長い間医療に貢献し続けて来ました。
❖10年後、30年後の医療
・10年後に実現可能とされる技術
手術ロボットをはじめとする、大きく切らない手術が一般的になっていきます。
もともとがん細胞は自分の細胞が変化したものだが、抗がん剤の研究が進んで、がん細胞だけを狙うことができるようになります。
画像で色々なものを捉える、イメージング技術も発達します。
ビッグデータによる健康管理:例えば家で健康状態をチェックして、重症になる前に治療を受けることができるホームヘルスケアや、ベッドに寝たとき、トイレに座ったときなどに自動的に血圧や体重を測定し、データベース化する技術などです。
・30年後に実現可能とされる技術
例えばガン患者に投与する抗がん剤は、遺伝子検査によって、一人一人の患者に対しどの抗がん剤が効くのかあらかじめわかるようになります。
内視鏡や針を刺してがん細胞の一部を切り取って検査する生検ではなく、採血によって適切なガン治療の選択ができたり、がん細胞の遺伝子情報を踏まえた適切な診断、治療の選択ができるようになります。
リアルタイムで脳の血流を調べる研究により、精神、神経疾患(アルツハイマーなど)の診断ができるようになります。
ビッグデータを使っての健康管理。(個人情報だが本人の同意なしに個人が特定できない形で医師が利用できるようになるかもしれません)
❖工学院での生体医工学分野の研究教育
福岡先生の生体生命情報研究室では、コンピューターから人間に情報を伝える研究をしています。その技術を応用すれば、床ずれの予防や徘徊の防止などに役立ちます。研究室では毎年夏に行われる工学院大学の科学教室で、Wiiのバランスボードを使って体の重心の位置を計るゲームを提供しています。これが意外に難しいそうで、初級から上級まですべて制覇できる人は少ないとお聞きしました。
また、生命情報の効率的なデータの処理方法を開発されていて、主に疾患と遺伝子の関係に注目して研究を進めています。
福岡先生の生体生命情報研究室のミッションは、数々の臨床データを活用して、結果的にこれから日本が直面する高齢社会における諸問題を解決することです。
今後社会問題になりうる病気は、がん、心臓病、脳卒中、アルツハイマーなどの認知症、高血圧、糖尿病、統合失調症などの精神疾患、新型インフルエンザなどですが、医師の中でビッグデータを解析できる人は2〜3割しかいないので、医学の要求に対して工学の研究者が手足となって解析しなくてはならなりません。そしてまだまだ医師の理解も足りません。遺伝子情報も膨大なので、その解析を工学部に依頼されることも増えており、特に、計測されたデータから有用な情報を取り出すのが先生の専門だそうです。日本の医学部は教授を中心とする白い巨塔のようなピラミッド型ですが、その点アメリカでは、大学を出なければ医学部に入れないので、ほとんどの医師は工学技術をわかっていて研究にも協力しています。医師が工学技術の必要を理解していけば、医学と工学を両軸にして、日本の医療はもっと良くなるでしょうとお話しされていました。そして、福岡先生の研究室から医療機器の分野に就職する学生も増えているとのことで、頼もしく感じました。私たちの身近にこんなに医療工学が使われていることに驚くと同時に、これからの医療の発展に工学技術はますますなくてはならないものになると感じました。
お話はとてもわかりやすくて楽しかったので、一時間半の講演はあっという間に終了してしまいました。
福岡先生は学生に常々「質問の出ないようなプレゼンテーションをしてはいけない」とおっしゃっているそうですが、今回の講演のあとでは、実に多くの方々が積極的に質問されて、先生も丁寧に回答して下さっていました。今後の福岡先生と、工学技術に携わる学生のみなさんのご活躍を祈念して報告を終わりたいと思います。
■交流会
後援会終了後、低層棟8階ファカルティクラブにおいて、佐藤副支部長、佐々木副支部長の司会により、福岡先生を囲んで交流会が行われました。
五十嵐支部長が福岡先生に講演のお礼を述べたあと、福岡先生からご挨拶をいただき、寺門支部長に乾杯のご発声をいただいて交流会が始まり、会員の皆様の活発な交流と和やかな雰囲気で進みました。
ご多忙中にも拘らず、多くの会員の皆様にお集まり頂き感謝申し上げます。
今後とも、支部活動へのご支援とお力添えを賜りますよう会員の皆様に宜しくお願い申し上げます。
次回の支部行事にも、皆様のお越しをお待ち申し上げます。
(記:東京支部副会長 諏訪園裕子)