本年度の千葉支部社会見学会は、コロナ対策を徹底しながら天候にも恵まれ3年ぶりとなる千葉県外、葛飾区柴又での開催となりました。
現地には千葉支部会員17名、OB2名、それに後援会本部の上原会長にもご参加いただきました。
建築学部建築デザイン学科准教授の初田香成先生を講師としてお招きし、初田先生のお話しを伺いながら参加者の皆様と一緒に柴又の歴史的建造物の街歩きを行い、題経寺と邃渓園の庭園・彫刻ギャラリーの見学を堪能しました。又、初田先生の研究室の学生2名にも散策案内と講演会でお話しをしていただきました。
<柴又の街歩き>
・寅さんとさくらの銅像~柴又八幡神社
「男はつらいよ」の寅さんとさくらの銅像から街歩きが始まりました。都内初、国の重要文化的景観に選ばれたのが葛飾区柴又と伺い、長き歴史の重みを感じました。駅前広場は京成電鉄が所有しているため、京成が柴又駅の広場を開発したいと話しがでた時、区では新しいショッピングモールや、景観を損なう事は避けたいと店舗の外観の色は周囲に馴染む色にし、ひさしを出して周囲の景観に合わすなど調整がなされたそうです。都市部の文化的景観は常に開発とのせめぎ合いがあると伺い、開発する側と景観を保存したい側とでは、話し合いの調整は大変だろうと感じました。
柴又八幡神社周辺には旧家が存在していますが、開発が進み旧家が建て壊される前に、初田先生の研究室では調査し記録を残す作業をしているそうです。下町は海抜が低く、江戸川が氾濫をくりかえす場所であり、旧家の人は何処が氾濫するのか知っています。だからこそ帝釈天も微高地の一番いい場所に建っていて、この地は旧家の人達が江戸と繋がり江戸からの行楽として発展をもたらしたそうです。とても興味深く歴史を感じさせる街並みでした。低い所へと用水路を引き、旧家はそれに沿って並んでいたそうです。しかし高低差を見て、あっという間に開発が進んでしまい調査が追いつかない、更に調査は時間と労力がかかり、大変な作業だと感じました。
関東都市部として古くから残っている参道は成田山、西新井、川崎大師、そして柴又帝釈天です。帝釈天参道の特色としてはひさし、はたさし、提灯が参道に向いて付け加えられたりして徐々に街並みらしくなり、農家のあぜ道を自然に利用したので曲がっており、建物は手前が広く奥に伸びて細長く、かつて農村だった事を表しているそうです。街並み保存が江戸時代から令和まで複雑に積み重なるようにできてきたのが良く、その為に葛飾区は柴又の立壊しの土地は区が買取り、インフォメーションにして、マンションが建たない事で柴又の街を保存する取り組みをしているそうです。
・帝釈天題経寺
帝釈天題経寺は江戸時代に建立され、装飾はシンプルかつ簡素な作りでしたが、お堂を建て移動し彫刻を豊かにし、装飾は日光東照宮の職員など江戸の棟梁が集まり、庭園を広げてお客を呼ぶ努力をして、有名なお寺となったという歴史が今にあるそうです。
邃渓園は学生の方に案内と説明をしていただきました。ギャラリーの彫刻は10枚全て別々の人が彫っているなど文献調査で分かり、中には祖父と孫の関係の人もいたなど、全て1枚板で作られているそうです。今では材料を手に入れる事も10人集める事も難しいことだと教えていただきました。当時からの庭園が保存されているのは、東京都としてはめずらしく価値があると言われているそうです。学生さんから「ぜひ庭園を背景に撮影して下さい。」と言われるまで、素敵な庭園を前に写真を撮るのも忘れていました。
<講演会、懇親会>
柴又の街歩き後、川千家さんにて講演会と昼食を兼ねた懇親会を行いました。
・講演会
今中支部長挨拶のもと、鵜澤理事の司会にて進行、初田先生の「保存再生デザインと葛飾柴又の文化的景観」について、及び工学院大学建築学部についてお話しをしていただきました。
初田先生はもともと文系から都市部計画にシフトし、葛飾区や学生の方々と議論し、柴又はホームグランドのような場所である事、工学院は10年前建築学部を日本で初めて作った大学である事など、当時なぜ建築学科から学部なのか?「今だからこそやるべき」とおっしゃったのが印象的でした。工学院の特徴はスタッフが一番多く、保存・再生デザイン分野の教員が3名おり充実して学べる環境が整っている事、他の建築学部では学べないようなことも学べる、建築学部だけにこだわらず、いろいろなニーズに応える広がる建築学である事、3年にわたるコロナ環境の中では、オンデマンドや、実験・実習は対面を調整し、今年4月から授業時間が105分から90分に変更になった事等を伺い、学べる環境に子供を通わせている事に誇らしく思いました。
建築学部もデジタル教育補助金を活用し建築の学びを変えようとしている事、建物を壊すのではなく植栽を植えることでかつての雰囲気を保存再生し、身近な遺産を保存しようとしている事、受け継いでいくのが大切である事、観光だけでなく住民の新しい世代が住みやすい街へと持っていく必要がある事、「建築をつくる」から「つくった後へ」が重要であり、リフォーム、インベーションが大切になるなど、学びの多いお話しをしていただきました。
現在も参道、お寺など区の文化財指定にしていこうと調査して進めているそうです。保存再生は昔も今もそしてこれからも開発と保存を繰り返す大変でもありながら、未来へと繋ぐ大切なことなのだと感じました。
次に2人の学生の方に、学生生活についての歩みをお話ししていただきました。初田先生の研究室に入ったのは、建築分野や保存分野に興味があり、保存修復を知ったのがきっかけだった事、工学院は良い先生方が多く、自分のやりたい事をやれる、やり続けられる事が良い所だと話されていました。もう一人の学生はコロナで家にいる事が多く、散策で身近な郊外住宅に興味を持ったのがきっかけでどうするか悩んだ時、出来るか出来ないかより、やってみたい気持ちを大切に優先しましたと話されていました。学生お二人のお話しは先を見据えていて印象的でした。
・懇親会
懇親会では、鰻重のコースを堪能しながら和やかに交流を深め、皆さんからの質問にも初田先生や学生の方は、丁寧に分かりやすく説明してくださり、とても充実した懇親会となりました。
今回の社会見学は、とても興味深く、歴史を肌で感じた大変有意義な一日となりました。
(記:千葉支部会計 新井 恵美)
①柴又駅前広場にて
②ギャラリーの彫刻
③帝釈天参道
④講師の初田先生
⑤初田先生と懇親会の様子
⑥参加者全員と記念写真