2018年7月21日(土)、東京支部2018年度第一回講演会が工学院大学新宿キャンパス5階0563教室で開催されました。
講師には、工学院大学 教育推進機構 基礎・教養科化学 高見 知秀先生に「ナノ化学研究室の日常」と題して講演していただきました。
ナノは十億分の一というとても小さな数を表す言葉で、原子や分子の大きさの世界です。講演では、原子や分子がどうやって科学的に証明されて、それから原子や分子が見えるようになるまで、そして高見先生の研究室でどんな方法でナノの世界に挑んでいるかを分かり易く説明して下さいました。
◉原子が見えるようになるまで
原子や分子の存在は、紀元前から理論的には語られてきましたが、長い間、実際に見ることはできませんでした。100年前でも原子の存在は認められていませんでした。ところが、アインシュタインが、原子の存在がないと説明できない「ブラウン運動の理論(1905年)」という理論を証明し、ペランという物理学者がアインシュタインの理論を実験で実証し、とうとうその存在が認められました。
◉だれが原子を見たのか。
存在が認められたら、見てみたいもので、ペンシルバニア州立大学のミューラー教授が、世界で最初に顕微鏡で原子を見ることに成功しました(1955年)。残念ながらこの方はノーベル賞を取る前に亡くなったそうですが、実は高見先生もこのペンシルバニア州立大学に研究室をお持ちだったそうです。実際に原子分子を見ることができたら、今度は原子分子を操る研究が始まりました。これには走査トンネル顕微鏡というものを使います。この顕微鏡は探針を動かすことによって原子を観測するだけでなく、操ることもできるのです。
◉原子分子を操る
高見先生の研究室でもこの顕微鏡が使われていますが、一年目はお金がなくて、自作の探針を作るために、秋葉原へ行ってギターのアンプを買い、この交流波形を使って針を作ったそうです。白金と食塩水と交流電源があれば、家でも簡単にできるとおっしゃっていました。先生によると、アンプのジャズモードで作った針が一番綺麗だったそうです。原子を動かす実験ではナノメートルの文字を書くことができました。また、高見先生は、分子一つ一つを動かして絵を描くことができるノウハウもお持ちだそうです。
先生の研究に伴う苦労話しもたくさん伺うことができました。高い走査トンネル顕微鏡は買わず、ご自分で手作りしたそうです。設計、コンピューターのプログラミング、旋盤回しなど、もう化学の範囲を超えています。アメリカで研究を続けるためにベンチャー起業を作ってお金を稼いだこと、オーストラリアのクイーンズランド工科大学でロシア製の壊れた走査トンネル顕微鏡を修理する代わりに回転する分子をもらえたこと、化学以外の知識も豊富な先生だからこそ、ここまでやってこられたのではないかと思います。
先生の研究室では、中古の走査トンネル顕微鏡を使って卒業研究が行われています。中古の顕微鏡で像を見るのは、普通車をラリーに出せるようにするようなものだそうで、大変な腕と根気が必要です。
現在、ナノ化学研究室では、探針をナノピペットに変えて、細胞へ薬品を注入する研究を進めています。スポイトの先端をナノスケールまで小さくしたもので、このナノピペットを作成する装置が来月研究室に納入されるそうです。このピペットの先端は、ES細胞やiPS細胞よりも小さいので、将来は、ナノピペットを用いて細胞へ物質を注入するためのロボット開発をしたいと思っていらっしゃるそうです。
今回の講演のあとでは、多くの方々が積極的に質問されて、先生も丁寧に回答して下さっていました。今後の高見先生と、ナノ化学研究に携わる学生のみなさんのご活躍を祈念して報告を終わりたいと思います。
■交流会の報告
後援会終了後、低層棟8階ファカルティクラブにおいて、佐々木副支部長、関根会計監査の司会により、高見先生を囲んで交流会が行われました。
折原支部長が高見先生に講演のお礼を述べたあと、高見先生からご挨拶をいただき、千葉支部の石野支部長に乾杯のご発声をいただいて、会員の皆様の活発な交流と和やかな雰囲気で交流も進みました。
ご多忙中にも拘らず、多くの会員の皆様にお集まり頂き感謝申し上げます。
今後とも、支部活動へのご支援とお力添えを賜りますよう会員の皆様に宜しくお願い申し上げます。
次回の支部行事にも、皆様のお越しをお待ち申し上げます。
■第一回代議員会の報告
また、同日2018年7月21日(土)午後1時より東京支部2018年度第一回代議員会を開催しました。
役員を含め42名の代議員の出席があり、寺門副支部長、井上副支部長の司会により下記のとおり議事進行が行われ、議案内容が承認されました。
1、役員紹介
2、折原支部長挨拶
3、代議員の役割、任務、本部代議員について
4、2018年度支部活動計画について
(記:東京支部副会長 諏訪園裕子)